エブリ・ブリリアント・シング公式サイト|東京芸術劇場

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最初に聞いたときは耳を疑った。 『Every Brilliant Thing』がユタ州で上演されている?






ユタ州というのは、控え目に言って広大な砂漠の国であり、言葉を選ばずに言えばアメリカのド田舎だ。

『Every Brilliant Thing』はエジンバラ演劇フェスティバルやブロードウェイでも上演歴があるがまだ新しい、実にcontemporaryな、実験的・前衛的と言ってもいいような作品である。日本で言えば鳥取で最新の演劇を上演しているようなもの……ってあぁ、いやホントに、鳥取には鳥の劇場という意欲的で賢い劇場があり、毎年のフェスティバルではかなり攻めた作品も上演しているから、当たらずとも遠からずかもしれない。
この『Every Brilliant Thing』もユタ・シェイクスピア・フェスティバルという演劇祭のプログラムの一つである。

とは言えやはりうまくイメージが噛み合わないまま、一抹の不安を覚えたまま、22時間もかけて飛行機を乗り継いで、何とか劇場まで辿り着いた。
モダンでシンプルなデザインの瀟洒な建物である。ドアをくぐりロビーを抜けて劇場に入ると、四方囲みの舞台上にたくさんのアンティーク家具が並べられて、本やレコードなど小道具と思しきものが置かれている。客席では出演するマイケル・ドハーティ氏がカードを配りながら客席の一人一人に丁寧に話し掛けている最中。うん、どうやらこれは、本当に僕の知ってる『Every Brilliant Thing』らしい。

開演時間を過ぎても芝居は始まらず、マイケル氏、舞台監督と思しき青年と何やら会議をしている様子。
『Every Brilliant Thing』ではいくつかの役を観客に割り振り演劇に「参加」してもらうから、その配役を決めているのだろう。
開演時間を5分ほど過ぎて客電がハーフにダウンし、演劇祭の芸術監督による開演アナウンスが流れる。「いよいよ始まるぞ」という心地よい緊張が客席に走り、アナウンス終わりで明るくなった舞台にマイケル氏が駆け込んできてショウは始まった。

そこからの息もつかせぬ展開、驚くほどテンポの良い台詞回しと巧みな観客の「さばき」はお見事の一言であった。
トークライブにでも参加しているようなくだけた雰囲気で劇は進むのだが、気がつくとどっぷりと主人公の男を取り巻くメランコリックな悲劇の世界に連れ込まれている。
気取ったところやもったいぶったところが全くなくてカジュアルに楽しめるのに、死、鬱、孤独と言った劇の大きなテーマに突然ぐいっと引き込まれる。客席には終始笑い声が絶えず、全員がこのショウに参加/没入しているのがよくわかる。ほとんど完璧と言っていい仕上がりだった。

あらためて戯曲の持つポテンシャルを教えてくれた上演であり、観ていて「日本版ではこうしよう、ああしよう」というイメージがどんどんわいてくる貴重な観劇体験だった。
やはりこの作品は一見の価値がある。

TEXT:谷賢一

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